力、とは、能力と言えるかもしれない。
色々な力、色々な能力について考えさせられた。
週末は、夫の本宅近くに出掛けてきた。
夫の友人であるスナイパー、ではなくハンターのデュークのお宅で飲み会があった。
デュークは、狩人なのだ。
飲み会は、猪やら熊やらの頭部の剥製の下で行われ、
焼肉のメインは、熊の心臓と鹿の舌と横隔膜と買ってきたマトンだった。
買ってきたのはマトンだけだ。
熊と鹿はデュークの獲物だ。
熊の心臓。
珍しいモノなので、せっかくだから私も食べてみた。
ひつじではなくて、熊になったかもしれない気がした。
夫はその晩は泊まれないと言っていたので、
飲み会終了後に私は一人で東御のウチまで運転して帰らなければならなかった。
お酒は飲む気が無いのでどうと言う事は無い。
ねぇねぇ、
帰り道の途中のナンとか観音とか言う辺りで熊が出た事あったよねぇ?
皆さんが口々に、アレはカモシカだったのだ、と言う。
カモシカってずんぐりしているから、
斜面に前足を掛けながら後ろを振り返るとよく熊に見間違われるんだよ。
そうか、カモシカだったのか。
でもさぁ、カモシカだって、もし車に向かってきたりぶつかったりしたら、
車も相当のダメージ受けるよね?
だが、それ程遅い時間にならなければ遭遇する事も無いだろうと言う。
デュークのお宅での飲み会は、22時頃にはお開きとなった。
そこから東御のウチまでは20分程かかる。
22時、東京なら、まだもう一軒行こうかな、という時間だ。
しかし、長野は一段と寒くなる季節だ。
東京に行って帰ってきた所為で、二段位一気に寒くなった気がする。
本宅の前で、夫におやすみなさいを言って、
東御に向かって一人の夜のドライブを始めた。
東御のウチの辺りに比べれば、アップダウンは少ししか無いけれど、
現れては消えていく集落の間には、かなりなS字コーナーが続く。
私は慎重に運転した。
車は殆ど通らなかった。
だが、カモシカはともかく、
もしかしてタヌキが飛び出してきて事故を起こす事だって有りうるのだ。
ヘンな所でコースアウトしたら、目も当てられない事になりそうだ。
そして、もしも、携帯が繋がらなかったりしたら、
一本道の前か後ろか、どちらが集落に近いか、私には分からないのだ。
私が用心深くなるのは、
車屋さんで仕事をしていた時に、一人っきりで困った経験があるからだろう。
まだ大丈夫だから運転するように言われて、
その車がガス欠ですぅっと止まった事があった。
山手通りの真ん中の車線で、冷却水漏れの所為でエンコして、
急病に間違われて救急車が来た事もあった。
一人っきりでも対処できたのは、
バッテリーの弱かったオペルが雨の日に出先でエンジンがかからなくなって、
用心に積んでいたブースターバッグを恐る恐る繋いでみて何とかなった時だけだ。
赤と黒を繋いでいたら、どうなったのだろう?
ガス欠の時は、たまたま車屋さんの近くの顔見知りのスタンドのお兄さんに、
かなり無理にお願いして助けてもらえた。
エンコの時は、事情が分かった救急隊員の方々が、
本来はしないのですが事故防止の為に、と路肩に車を押してくれた。
私一人で判断して対処できるような事は、全く微々たる事だけで、
困った事になった時は、既に私の能力を超えた事になっているのだ。
先週、東京から帰ってくる時に、私は、かなり怖い目にあった。
いつも高速バスに乗る東京の途中のバス停で、
雨宿りをしながら一人でバスを待っていた。
バスは定刻よりも遅れていた。
私はバスが遠くに見えてこないか、歩道に立ってバスが来る方を見ていた。
歩道の向こうから中年と思しき女性が歩いてきた。
時間と場所が違ったら、「ご機嫌な酔っ払い」に見えるような感じに、
手を「指揮棒を振るように」るんるんと振りながら歩いていた。
歩道は車が通れる位の幅があり、
たまたま他に一人も人も自転車も通っていない瞬間だった。
その女性は、私がバスを見ている方向から来たので、
勿論視界に入っていた。
けれど、歩道は広く、私は歩道の幅のかなり建物寄りに立っていた。
そして、言うまでも無く、
私はバスが見えてくるであろう彼方に視点を合わせていた。
「ぅぎゃおおっ!!」
擦れ違い様にその女性が私の顔30センチ以内に噛み付くように叫んだ。
恐怖に固まった私は、敵意に満ちた女性の視線を至近距離に感じた。
全くふざけてはいなかった。
その目は真剣だった。
私は、全く無防備にただ固まっていただけだった。
荷物を取り落とす事も無かったが、防御の構えもできなかった。
女性は敵意に満ちた視線と野犬のような表情のまま、
まだ何かを言いながら、次第に離れて行ったけれど、
30メートル程先で立ち止まり、何か叫びながら私の方を見ていた。
どうして、こんな時にバスは来ないのだろう?
私はバスが来る方と、逆側にいる女性を変わりばんこに見ながら恐怖の時を過ごした。
直にまた歩行者が通るようになったけれど、
女性はかなり長い事、そこから私を見ていた。
バスがやっと来た。
乗り込んだ高速バスがその女性が立っている所を通り過ぎても、
暫く胸が不安な動悸でざわついていた。
夫は、私が何かで遅れて、バスに乗り遅れたのではないかと心配していた。
だが、もし、女性が私を突き飛ばしていたりしたら、
どうなっていたか、それは、分からないのだ。
引ったくりの時も同じだったが、
もしかして、ぶすっとやられていたかもしれないのだ。
人生は、どこでいつ何があるか、分からないのだと思った。
空手のお稽古に行っていた時に、
一度だけ護身術のような事を教えてもらったことがあった。
だが、あれは、痴漢撃退法のようなモノだ。
今回のようなケースには該当しないし、
第一、私は全く固まってしまって防御の構えもできなかった。
一人の夜のドライブは、カモシカにもタヌキにも遭遇する事無く、
無事に東御のウチに到着する事ができた。
だが、危険は、どこに潜んでいるのかは分からないのだ。
常に運転は慎重にしようと思うし、
次回バスを待つ時は、誰が噛み付いてきても防御できるように
気を張らねばと思っている。
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