バスの席では、恐らく30回は幼虫が入っているバッグを覗いたと思う。
バスの中は、暖房が効いていて、
幼虫が蒸れて苦しがっているのではないかと心配であった。
だが、見える所には居たけれど、それ以上は上ってこないようであった。
少し安心した。
いつか、飛行機の中で、乗客が持ち込んだペットのネズミが逃げ出して、
騒ぎになった、というニュースを見た事があった。
幼虫がバスの中でどこかに行ってしまったら、捜索は不可能に近いであろう。
だが、意外と幼虫は大人しくしていた。
どうやら覚悟を決めたようだ。
練馬区役所前で降りると、小雨が降っていた。
いつも旅行鞄に入れている小さな傘をさして、練馬駅まで急いだ。
幼虫は地下鉄でも、平気であった。
幼虫にとっては、想定外の体験であろう。
標高650メートルから、いきなり地下の世界だ。
何か感じるトコロは無いのだろうか?
だが、余り感じるトコロは無かったようだ。
東中野の駅で見たら、パセリを食べていた。
すごい神経だ。
この幼虫は心臓に毛が生えているのかもしれない。
西荻窪に着いた。
意外と問題なくプロジェクトは遂行されたようだと思っていた。
もうすぐ別荘に着く。
つい急ぎ足になっていたようだった。
もうあと本当に2分で着く、という所でふとバッグを覗いてみた。
目を疑った。
幼虫はパセリの葉から離れ、バッグの中を歩いて
肩提げの下まで上ってきていた。
待って、ちょっとだけ、待って、
ね、もう着くからさ。
余計に急ぎ足になってしまった。
プラスティックの容器に入れた水がタップンタップン言っている。
水がこぼれたかもしれない。
やっと別荘に到着した。
先ずは、幼虫の点呼を取らなければならない。
幼虫は三匹居るのだ。
間もなく、全員の無事が確認できた。
だが、その後は大変な騒ぎであった。
幼虫は明らかに興奮状態にあった。
象が「パオォ〜ン」と言う時のように、もんどりうってモダエえていた。
間断無く歩き回り、時折立ち止まってはモダエるのだ。
苦しそうであった。
気圧の変化で頭痛がしてきたのかもしれないし、
先程の私の急ぎ足の所為で、船酔い状態になってしまったのかもしれない。
一番大きい個体と中くらいの個体が、
接触してはぴくぴくと体を震わせていた。
明らかに大きい個体が中くらいの個体に嫌がらせをしていた。
一番小さい固体は、ニンジンの葉の先でぴくりとも動かなかった。
もし、ずっとこのままであったら、どうしよう、と思った。
かわいそうな事をしてしまった、と後悔した。
だが、結果から言えば、時間が経つと共に、
幼虫はいつもの落ち着きを取り戻したようであった。
姉の子供達が来て興味深そうに観察していた。
ペットの名前は何?と聞かれたが、生憎と名前は付けていなかった。
名前は付けていないから、大中小って呼ぼうか、と提案したら
子供達は腹をよじって笑いこけていた。
けれど、私のペットなのだ、という認識で、
子供達は幼虫にちゃんと気を使ってくれている。
がたがたしたり大きな声を出すと幼虫が驚いてぴくぴくするのを見たのだ。
今日も私が帰宅すると早速やってきて、
幼虫が脱糞する様子を見たり、ニンジンの葉を食べるのに見入っていた。
姉が子供達のお風呂の時間を知らせにやってきた。
ねぇ、ウチの幼虫見ていってよ。
あぁ、幼虫ね、どれ?
うわぁ!大きい!
姉が大きな声を出して驚いていた。
子供達が姉に、「お母さんが大きな声出すから驚いているじゃない。
大きな声出しちゃダメなんだよぅ」と注意していた。
明日は妹の子供にも自慢する予定だ。



