夏は、既に終わっている。
通り過ぎた夏を振り返って思う。
夏の過ちと落胆を。
若い頃には、沢山の過ちを犯したものだった。
だがしかし、こういう年齢になってまで、
自分がこのような過ちを犯すとは思ってもみなかった。
それは、余りにも救いようの無い過ちであった。
まるで、経験値の浅い小娘が犯すような過ちだった。
初めてインターネットで布地を発注した。
キャミソールとフレアパンティのセットを作る予定で、
用釈に僅かなゆとりがあるだけの生地を発注した。
発注したのは二種類。 リバティとソレイアードだ。
リバティでは、自分のワンピースやブラウスを作った事もあったし、
バイアステープにしてちょっとした所に使ったりした事もあった。
だが、ソレイアードは、使ったことが無かった。
ソレイアードが嫌いなワケではない。
ただ単に、たまたま使った事が無かっただけで、
どちらかと言うと好きな感じではあった。
だが、その未経験なソレイアードを実物を見ないでネットで買った。
それが、過ちの始まりであった。
かなり長い時間がかかって、二種類の生地はウチに到着した。
早速水通しをした。
水通し、とは、生地をしっかりと水に浸して、
水で縮む生地は縮ませて、糊を落としたり、生地の縦横を整えて、
アイロンがけをして仕上げる事を言う。
水通しをしてから、次にパターンを置いて裁断に取り掛かるのだ。
白状するが、私は、やはりリバティの方が好きだ。
リバティを先に裁断した。
久しぶりに扱ったリバティは、やはり素敵な生地だった。
今年のモデルだという新しい模様も素敵だったし、
ネットで見た色違いの中から選んだ色も気に入った。
イイ気分でリバティの裁断を終えた。
次に、ソレイアードの生地を広げて裁断にとりかかった。
けれど、心では、ミシンの作業もリバティからにしようか、
などと考えていたに違いなかった。
私は、その時、まさに過ちを犯していた。
「木を見て、森を見ず」とは言うが、
私は「森を見て、木を見ず」という過ちを犯していた。
裁断を途中まで進めた所で、ソレイアードの模様に
上下があるらしい事に突然気付いたのだ。
用釈に僅かなゆとり分しか無い生地では、
もはや裁断のやり直しは不可能であった。
若い頃には、沢山の過ちを犯したものだった。
生地的な過ちにおいては、コーデュロイ等の毛足の方向のある生地で
右身頃と左身頃で上下逆向きに作った事もあったし、
向きを統一して裁断しようとしたら用釈が足りなくなった事もあった。
経験値の浅い、若気の至りともいうべき恥ずかしい過ちだ。
だが、それと同等に等しい過ちを、犯してしまった。
そして、既にリカバリーは不可能であった。
仕方なくキャミソールは諦めて、フレアパンティだけ裁断した。

この夏の過ち。
それは、ヒドいものであったと思う。
けれど、落胆もまた、全く以ってヒドいものだった。
カフェの開業届けを出していなかった。
何がナンでも行けなかった、という程忙しかったワケではなかった。
けれど、自分の中で期限も想定していなかったし、
そう遠からず行く、としか考えていなかった。
ある定休日に、ふと思いついて開業届けを出しに行く事にした。
予め税務署に電話をかけて、必要なものはあるか聞いてみた。
「まぁ、ハンコくらいは要るかもしれないので持って来て下さい」
税務署の方は和やかにそう仰られた。
実印も要らなければ、保健所の営業許可証も要らないのか。
以前に頂いてあった事業開始届けに記入漏れが無いかざっと見て、
夫にこれから税務署に行くのだと電話をかけた。
夫はその日は税務署近くの物件に居たので、
後で行って一緒におやつを食べようと思い、バナナケーキも持った。
イイ気分でちょっとしたドライブを楽しむように出掛けた。
税務署での事業開始届けは、写しに税務署の判を押してくれて
あっけないほど簡単に終了したようだった。
書類を仕舞いながら、係りの方が申告はどうするかと言ってきた。
「青色申告にします」と答えた。 (だって、すごくお得そうだモンね)
控除の額だとか、赤字繰越だとか、お得そうな話を聞いていた。
係りの方が、向こうから用紙を持ってきたけれど、
「開業は5月、だったんですよね」と仰った。
先ほど、事業開始届けに「開業 5月○○日」と書いて提出したばかりだ。
「そうです」と答えた。 (さっき書いたの出したじゃん)
すると、係りの方は仰られた。
「青色申告は、事業開始から二ヶ月以内に手続きしなければできないんですよ。
ひつじさんの場合は、7月○○日までに手続きしなければならなかったんですが
もう過ぎているので、初年度は白色申告、という事になりますね」
頭が、白色、になった。
控除が、赤字繰越が、遠退いて行った。
三秒位の間、私は、開業日を改ざんできないかと考えたけれど、
恥ずかしくなり、その考えは捨てた。
深い、落胆を感じた。
ナンだか、面倒だよと言う意見もあったけれど、
どうにかやってみて、お得そうな控除や赤字繰越の恩恵に預かろうと目論んでいた。
深く、深く、がっかりした。
そして、コレを話して夫に「だから早く行きなって言っただろ」
と言われて、落胆に追い討ちをかけられる事を思うとゲンナリした。
だが、ウツロな目をした私に、係りの方は更に仰った。
「消費税課税事業者選択届けはどうしますか?」
もう、ナンだか、分からなかった。
「夫に、電話してみます」と答えた。
手短に、開業二ヶ月を過ぎたので初年度は白色申告しか出来ない事を告げ
消費税課税事業者、とかは、どうすればイイのだろうか聞いてみた。
夫は、少し驚いて「えぇぇ!」と言ったけれど、
うんうんと聞いた後で、係りの方に電話を替わるように言った。
暫くお話してもらい、電話を終えた。
そして23年分以降の所得税の青色申告の用紙の写しと、
消費税課税事業者選択届出書を二枚と、決算の手引書と、
国税局の「もしもしダイヤル」を下さった。
簡単なアンケートに記入して、税務署を後にした。
深く、落胆していた。
どのくらい、とか、よく分からなかったけれど、
すごく損をした気分だった。
それも、どうしてもという理由ではなく、
ただ、ちょっと先送りにしていた所為なのだ。
この、深く深くがっかりしている所に、
「だから言っただろ」と言われたら、泣いてしまうかもしれない。
考えてみたら、夫だって二ヶ月以内と知っていたワケではなかった。
「もう、仕方ないじゃない」と言おう、
そう思いながら、夫の待つ物件へと向かった。
夫は「残念だったね」とだけ言った。
きっと酷く落胆してやって来る私に、どう言おうか考えていたのだろう。
持って来たバナナケーキを食べて、
物件で夫と別れて一人で運転して帰宅した。
「ナンだか、すごく損した気分でさぁ。がっかりしちゃった」
えのっちさんにお電話して、白色になった事を話してみた。
少し考えてから、「そんなに損でもないと思いますよ」と言って下さり、
「何でも聞いて下さいね」と励まして下さった。
昔々、私が若かった頃に、
「アッシー君」や「メッシー君」だとかいう言葉があった。
今、私が頼りにしているのは「カイケー君」だ。
会計ソフトの入力の仕方を指導して頂いて、
入力しやすいように設定もして下さった。 頼りになる。
あとで請求書を送りますよ、と言われたので、
プリン換算にしてもらえるようにお願いをした。
会計監査年間プリン契約。
夏を振り返ると、そこには過ちがあり、落胆があった。
けれど、励まして下さる方や、労わってくれる夫もいるし、
また新たな勉強もさせて頂ける機会にもなった。
一歩一歩、進んで行こうと思う。